2023年2月21日(火)
先日、読み終えた岡田喜秋著「日本の秘境」の中の一文「季節外れの阿寒をゆく」の中に、原田康子著「挽歌」が出てきたので、懐かしくて市立図書館から借り出し、数十年ぶりに再読してみました。
昭和31年(1956年)東都書房から単行本として出版されるや、たちまち70万部という売れ行きをみせて大ベストセラーとなり、それまで無名の、釧路市在住の女性作家、原田康子の名前が一躍全国に轟き、北海道旅行ブームすら巻き起こした作品です。
借りてきた新潮社の文庫本は、平成4年10月発行の第六十刷、ベストセラーだけでなく、とても息の長いロングセラー作品であることが分かります。
只、この歳になって読み返すと、登場人物の愛の形に不自然な作り込みが多く、また、心理描写の説明が過剰でもたつきます。が、何といっても作者28歳の時の若書き、夢見る若い女性の空想の作品と思えば良いのかも知れません。ヒロインが心を寄せる相手は、妻子ある中年男性の建築家、それだけに文中に、アンコールワット、タージ・マハル、ハトシェプスト葬祭殿、ハギア・ソフィア、スレイマニエ寺院など、世界の著名な建築物が出てきます。執筆時点の作者は当然ながら、行った事も見た事もない筈、作品に彩りを添えるために登場させたようです。昔、読んだ時は、ちんぷんかんぷんでしたが、今は全て訪れた場所、懐かしく思い出し、親しめました。